西湘歯科医院

2011年2月

「食べなくても生きられる・・・・・胃ろう」
以前、口から食べることが脳の機能維持につながるという話をしました。 なるだけ口から食べるようにする事が大切だと。この現代においては、口から食べなくて も生きられるようになりました。
血管に直接栄養剤を点滴する方法と、 胃に穴を開けて食べ物を流し込む方法です。 前者は中心静脈栄養と呼ばれ、手術後や、消化器に疾患がある方に用いられます。 後者は胃ろうと呼ばれ、摂食 障害がある方に用いられます。胃ろうは介護する側に とっては非常に楽です。口から食べる時のむせ、咳もなく、食形態の工夫もいらず、 時間がくれば決まった量を点滴のように流し込んでやればいいのです。
ただ、される 側にとっては、味はもちろん無く、知らないうちにお腹がいっぱいになったというだけの ことで、一番期待していた食べる楽しみは全く無く、文字通り味気ない生活になってし まいます。昔なら、口から食べられなくなることは、すなわち死を意味していました。 その点においては死なずにすむようになったと言えます。
ただ問題は、その生き様にあります。胃ろうによって生きながらえたは良いのですが、 脳の機能は確実に後退します。その結果、ほとんど植物人間のようになっていきます。 呼びかけても反応無し、目は開いても焦点は虚ろ、会話はもちろん無理、でも介護は死 ぬまで続き、家族の肉体的、時間的、経済的な負担はかなりのものがあります。 老老介護ならもっと大変、共倒れになりかねません。
胃ろうにすると延々と生きるかといえば、そうでもなく約2年を待たずに亡くなるようです。 その2年足らずの時間をどう考えるかというのが、大変難しい問題です。
人間死に様が大切と言われます。 生前立派な方でも、認知症になると家族の手を煩わせ、暴言とか吐くようになると、 死後、肩の荷がおりたというのが偽らざる思いではないでしょうか。
私事で恐縮ですが、私の叔父が少し前に亡くなりました。末期がんでした。 手術後再発し、高齢でもあるため自宅で化学療法を受けていました。 寝たきりにもならず、死ぬ前日まで歩いてトイレにいったそうです。
「延命治療はするな、死んでもすぐに皆には知らせるな。」死を意識したのか兄弟には 「いつか墓まいりに来てくれ」という手紙をしたためていました。 陸軍士官学校を卒業して5か月で終戦、最後の軍人でした。 介護の必要も無く逝ってしまいました。
残された家族は、「立派な最後だった」と言っていました。 死んでほっとされる生き方、死んで惜しまれる生き方、さてあなたはどちらを 選びますか？ 私は後者を選びますが、これはあくまでも私見です。
植物人間でもいいから生きてて欲しいという家族の考えも否定はしません。 ただ、私の祖母が認知症になった時、介護をしていた父に向って「どこのどなたか存じ ませんが、いつもありがとうございます。」と 言われたという話をした時の寂しそうな 表情は忘れられません。
でも葬式の時の表情はもっと寂しそうでした。 正解というものは無いのかもしれませんね。
※次号をお楽しみに！！

2011年3月

「災害時入れ歯をなくさないために」
東北地方の地震、同じ日本で起こった出来事とは信じ難いほどの大惨事でした。
助かった方はほんとに着の身着のまま、何かを持って逃げようとした方の多くは津波に のみこまれてしまいました。
一番大切なものは「命」、そう思った人の方が助かる確率が高かったように思いますが、 自然災害、こればかりは人間の想像をはるかに超え、甘く見ていた人々に痛烈なしっぺ 返しをお見舞いしました。
西湘歯科医院は小田原にあります。関東、東海地震、富士山の噴火と、予想される自然 災害の真っ只中に位置すると言えます。もし命が助かって避難所生活が始まった時、 今度は生きながらえるために食べなくてはなりません。
果たしてその時入れ歯は手元にあるでしょうか。
寝る前に洗って洗面台の横にいつも置いておくという方、地震災害時には取って逃げられ ません。家がつぶれたりしたらもう見つけるのは無理でしょう。 新しく作るにしても、歯科医院も技工所もつぶれてしまったかもしれません。
満足に食べられないとストレスが溜まってしまいます。 そこで提案したいのが入れ歯を入れたまま寝るという事、これなら無くす心配がありませ ん。一般的に、入れ歯は寝る前にはずす様にお話をします。 寝ているうちに歯ぐきを休ませるためです。
もし、口の中に入れたままお休みになるなら、夕食の後、寝るまでの時間だけでも外すよ うにして下さい。これで入れ歯は大丈夫、あとは・・・歯ブラシ、地震がいつ来てもいいよ うに、いつも歯ブラシをしていて下さい・・・・・・・・・・・冗談ですよ。
枕元には、避難袋、その中には歯ブラシもお忘れなく！えっ、寝る前の外している時間に 地震が来たらどうするんだって？ 外してもポケットに入れるようにして、肌身離さず持っているようにするしかないかと ・・・・・汗
※次号をお楽しみに！！

2011年4月

「綾小路きみまろもびっくり」
長年歯医者をやっていると、時々いるのがこんな患者さん、
患者「先生、いっそのこと全部抜いて総入れ歯にして下さい。その方がすっきりするのと ちがいますか？」
私　「すっきりはしますが、噛めないですよ。ボケたり、長生きできませんよ、それでもい いですか？」
患者「どうせ、あと10年位しか生きないし」　　（ちなみにその方は70歳でした）
ここまでの会話は別段珍しくありませんが、この次からが面白い。
私　「綾小路きみまろも言ってますね、長生きはしたくないと言いつつ、サプリメント」
患者「 ホントですなあ、でも最近家内から言われるんですわ、お父さん、もう薬飲むの やめたらって！」
私　「えっ、今何と？」
患者「医者に行くのもやめたらって言われるんですわ。」
私　「それって、もう死んでと言ってるのと同じじゃないですか」
患者「そんなことになりますかなあ」
ここまで言われると、どういうリアクションをしたら 良いのか・・・・・・・ （実は、この後思いっきり笑ってしまいました。）歳とって、ろくに家 の手伝いもせず、料理もつくらず、ただそこにいるというだけならまだしも、文句ばかり 言うのでは、旦那が死んでからが私の人生、と世の奥様方が言うのも 無理ないですね。
そういえば、ちょっと古そうな食べ物、子供の食卓にはのぼらないし、それ大丈夫だった？ じゃあ食べよっとと妻はよく言う。
食べられるかどうか匂いを嗅ぐのも私の役目、私は毒見役かい！以前冷蔵庫にあった コンビニのおにぎり、 外観は大丈夫だったので、半分くらいガブッ、もぐもぐ、ごっくんし た後 ふと見ると、中の具の色が、オパールのような青緑、変わった具だなあ、新商品か なあ・・・・・そばにいた娘にみせたところ、「ぎゃーカビてる！」 どうしよう、もう飲んじゃ ったし・・・・ 幸いピーにはならずに、血となり肉となりました。 ペニシリンも青かびから作るし、と思って無理やり納得。
※次号をお楽しみに！！

2011年5月

「死後オカマにされないために」
東日本大震災でお亡くなりになった方の中には、身元の分からない方がかなりいらっ しゃいます。
亡くなってそれほど日にちが経っていなければ、顔を見ただけでわかる人もいるで しょう。しかし、遺体の損傷が進んでくるともう外観だけではわかりません。そこで、 歯科医師の出番です。われわれになにができるかというと、歯の治療の跡からその 人が誰だか調べるのです。
航空機事故などで焼けて炭化した場合には有効な方法です。もともと搭乗者名簿に 名前が残っているので、調べやすいのです。しかし今回は勝手が違いました。
どうしてかと言うと、カルテを保存しているはずの歯科医院自体が流されて跡形もな いから、調べようがないのです。
たとえカルテが残っていたとしても、歯型から個人を特定するというのは非常に難し く、 かなりの手間がかかります。時々警察署から口の中の写真が送られてきて、誰だか調 べて欲しいという依頼があります。
歯だけの写真を見て誰だか調べるのは、それも他の歯科医院の患者さんだったらもう はっきり言ってわかりません。そこで将来に向けて提案があります。
歯を治療するときに名前を書いた小さなプレートを歯に埋め込むというのはどうでしょ うか。学校では持ち物にはすぐに名前を書かせるでしょう？そこで、歯にも名前をと 思ったのです。
中には愛する人の名前を刺青する方もいるようですが、ぜひ自分の名前をきざんで下 さい。そうじゃないと、死んでからオカマやオナベにされてしまうかも。
※次号をお楽しみに！！

2011年11月

「悲しい」
「虫歯も治さないで、金とってんじゃねえよ、クソじじい、クソ女、死ね」
これは治療が 終わり、帰路についた患者さんからの文句の電話です。事の発端は、奥歯の色が 虫歯っぽいので診て欲しい、という事で拝見したところ、歯ブラシの強い力によって 表面のエナメル質が削れてきた 結果なので虫歯ではなく、今後は歯ブラシの当て方 に注意が必要ということでその方面の話をしました。
毎日の歯磨きで歯垢を取ることは、虫歯の予防、歯周炎の予防、口臭の予防と、非常 に大切な行為です。 我々歯科医師は虫歯を削って治すこと だけが仕事とは思っていません。
そこがまだまだ理解されていないのが残念です。
たまにこんな患者さんがいます。 電話を受けたスタッフはたまったものではありません。 精神的にとても落ち込みます。電話のみならず、面と向って言う方もいて、私がいる ときには決してそんなそぶりを見せないので、困ったものです。
でもそういうクレームは必ず報告させますから 結局は私が知ることになります。 私としてもそういう患者さんには来て欲しくないので、それなりの対応になって しまいますが、そこまで言っておいてどうしてうちにくるかなあ、他で治療すれ ばいいのにと思ってしまいます。
普通の人なら口には出さない言葉です。それが言えるということは、それなりの育てられかたをしてきたということで、 それはそれでかわいそ うですが・・・・。
友達もそんな人ばかり寄って来るでしょう。 一生文句を言いながら暮らすのでしょうか。私には耐えられません。 近所に歯科医院が出来たせいか、今は以前のような混雑はなく、一人につき 30分の治療時間が使えます。 これは私にはとても有難い。 経営的には苦しいですが、時間に追われることなく、 すごくいい治療ができています。 虫歯が歯ぐきに近いと、どうしても歯ぐきが開いた穴に倒れ込んできます。 時間が無いとその歯ぐきを電気メスで取ることが出来ません。 その結果、穴をカバーできない詰め物になり、また虫歯になってしまいます。
また、歯の型を採るときに歯の周りに糸を巻いて、歯肉をよける 圧排という操作が 出来ません。 それも削ったところをカバー出来ないことになり虫歯の原因になってしまいます。 いちいち説明はしていませんが、そこまで色々考えて行った治療の見返りがそういう 心無い言葉では・・・・・・・一時期、ここを閉めてどこか別の場所で開業しようかと考 えたこともあります。
今でもその気持ちは心の片隅にあります。 一般的に、土地の安い地域、アパートが多い地域には、そういう方が多いと言われて います。それを嫌って都内に開業する医師も後を絶ちません。 やはり気持ちよく仕事をしたいじゃありませんか。 うちに来るほとんどの患者さんはとてもいい方ですが、中にはそうでない方もいて、 そういう方は、遅刻、無断キャンセルが多いのでこちらでもちゃんとチェックして 気をつけてはいたのですが。 ごめんなさいね、吉田さん、希望にお答えできなくて
※次号をお楽しみに！！